アイスの本棚

読んだ本、観た映画の感想を書きます。

『ある男』 著 平野啓一郎 文藝春秋

平野啓一郎さんの『ある男』を読了。
 
この物語を”家族とアイデンティティ”というテーマで見ると、とても一貫しているものを感じる。
戸籍を交換している人たちは皆、家族にコンプレックスがある。つまり自分という存在を認めてくれる、証明してくれる他人が近くにいなかった。
そういう人たちに触れることで、主人公の中にも”今の自分”を捨てて別の誰かになってしまいたいという欲望が見え隠れする。でも主人公には家族がいる。
特に息子は主人公にとって大きな意味を持っているように見えた。冒頭で主人公が息子との時間を過ごして、説明のできない幸福を感じるシーンがある。これは息子が自分のアイデンティティだと感じたからではないだろうかと思う。自分と同じ遺伝子を持つ者、それは他の何にも代えられない確かな存在の証明。
SNSによって自分と他人との境界があいまいになっていく中で、アイデンティティの確立は人類にとって難しい課題なのかもしれない。
 
とてもおもしろかったです。